ST002:あいどるそんぐ

転入生の日向 綾は、転入先であるフラワーズ・ヒル高校でのアイドル部設立を目指す。
そして早速、隣の席の美山 こころに声を掛けてみるが…?


 突然の勧誘に、こころはそれを理解するのに時間を要した。

「どういうこと?」
「こころちゃんに、ドルフェスに参加してほしいなーって」
「なんで私が」
「だって、こころちゃん可愛いんだもん!」

 一目惚れしちゃった、と言いながら、綾はこころに期待の眼差しを向ける。

「…やだよ、そんな面倒臭そうなの」

 綾の期待を、こころは一刀両断した。途端に、綾は残念そうに視線を落とす。

「……から」
「え?」
「私、諦めないからっ!」

 綾はこころを真っ直ぐに見つめてそう言うと、荷物を持って教室を飛び出していった。

「変な子…」

 こころはそう呟いて、自分もようやく帰路につくことにした。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「こころちゃん、おっはよーう!」

 翌朝、学校へ向かう途中で、こころは誰かに声を掛けられた。誰に声を掛けられたのかは、振り向かなくても分かる。綾だ。

「ねえ、考え直してくれた?」
「何を…?」
「何をって、ドールズのことに決まってるじゃん!」
「だからそれは、昨日やらないって言ったでしょ」

 こころが答えると、綾は頬を膨らませて見せた。

「女の子なら、他にもいるんだし。…ほら、あの子とか」

 こころはそう言いながら、少し前を歩いている少女を指す。たまたま近くにいたというだけで、特に理由もなく指したのだが、どうやら綾のお眼鏡にかなったらしい。

「あの子、こころちゃんの知り合い?」
「ううん。通学の時間帯が同じだから、それでたまに見かけるくらい」
「なるほど」

 綾はそう言うと、何やら考え込むような仕草をした。勧誘の方法でも思案しているのだろう。

「よーし、行ってくる!」

 しばらく考えた後に、綾はそれだけ言い残して、前を歩く少女の元へと駆けていった。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 背後から誰かが近づいてきていることに気づかなかったのは、音楽を聴いていたせいだろう。
 少女は、不意に肩を掴まれて素っ頓狂な声を上げた。それから、慌ててヘッドホンを外す。

「ねえ! 音楽好きなの?」

 綾は少女に、目を輝かせながらそう尋ねた。

「…好きですけど」
「アイドルに興味あったりしない?」
「へ…?」

 矢継ぎ早に投げかけられる質問に、少女は戸惑いを隠せない様子だった。
 そんな少女を見て、綾はようやく自分がまだ名乗ってすらいなかったことに気づく。

「いきなりごめんね。私、2年B組の日向 綾! ドールズになってくれる人を探してるの!」
「あ…えっと、1年C組の寺岡 唯です。…ドールズって、ドルフェスのですか?」
「そうそう! ドルフェスに参加してみたいなー、なんて思わない?」
「そんなの、考えたことないです」
「じゃあ、ちょっと考えてみてくれない? 返事はいつでもいいから!」
「はあ…」

 一方的に話を進められ、唯は溜め息にも似た返事をした。それからヘッドホンをして、音楽プレーヤーに入っているアイドルソングを再生してみる。
 それを聴きながら、唯は自分より適任だと思う一人の少女のことを思い浮かべていた。

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