ST012:始まりの音

いよいよライブ開催の当日となった綾たち。幕が上がったその先には、絶望という名の光景が広がっていた。一方で、綾たちの活動を知った生徒会が、阻止しようと水面下で動き始める。


「綾さん…」

 観客は、ほんの僅かだった。綾の肩が小さく震えているのを、麻央と唯は見逃さなかった。

「…皆さん」

 マイクを握り、震える声で綾は続ける。

「今日は、私たちのために集まってくれてありがとうございます!」

 俯き気味だった綾は改めて顔を上げ、真っ直ぐに正面を見つめる。その視線の先に、綾はこころの姿を認めた。
 それから麻央と唯を振り返り、がんばろう、と囁く。しかしその言葉は、綾が自分自身に言い聞かせているように聞こえた。

「それでは、聴いてください。“ハジマリノオト” 」

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ハジマリノオト。綾が曲名を告げると、イントロが流れ始めた。裏方として、誰かが手伝ってくれているのだろうと、こころは察した。
 綾と口論になって以来、結局こころは一度も練習に顔を出さなかった。いや、出せなかったのだ。そのため、綾がどんな歌詞を書き上げたのか、彼女は知らなかった。一言も聞き漏らさないように、こころは綾たちの歌に耳を傾ける。

゚♪゚.★.。O。゚♪゚.★.。O。゚♪゚.★.。O。゚♪゚

【ハジマリノオト】

今を生きる  僕らここで
めぐり逢えた奇跡 胸に抱いて
唯一かけがえのない ここは
キラキラした世界

みんなと一緒に目指す夢だから
どんなにつらくても がんばれるんだ
心の中で鳴り響くメロディ

ハジマリノオト 君に届いてるかな?
描いた夢 きっと 叶えてみせるよ
ハジマリノオト 君に届けたいから
運命にあやかってみるよ
輝く未来へ さあ 歩き出そう

゚♪゚.★.。O。゚♪゚.★.。O。゚♪゚.★.。O。゚♪゚

 曲が終わり、客席から疎(まば)らな拍手が送られる。その音を聞いてようやく、こころは自分が放心していたことに気づく。
 緞帳が降り、講堂を後にする生徒たちの中、彼女らとは逆方向に走る生徒がいた。ミヲとすずである。二人はあっという間に座席の間を抜けて、舞台裏へと姿を消した。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ちょっと、あなたたち!」

 ライブを終えてすぐ、舞台裏にそんな声が響いた。綾たち三人は、驚いて声の飛んできた方へと振り向く。

「講堂の使用許可は取ったんですか?」
「え…」

 怒ったような、それでいて呆れたようにも聞こえる声で、ミヲは続けた。

「無断でこんなことして、いいと思ってるの?」
「ごめんなさ——」

 謝罪の言葉を言い終わらないうちに、綾は突然その場に倒れた。

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