転入生の日向 綾は、転入先であるフラワーズ・ヒル高校でのアイドル部設立を目指す。
そして早速、隣の席の美山 こころに声を掛けてみるが…?
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突然の勧誘に、こころはそれを理解するのに時間を要した。
「どういうこと?」
「こころちゃんに、ドルフェスに参加してほしいなーって」
「なんで私が」
「だって、こころちゃん可愛いんだもん!」
一目惚れしちゃった、と言いながら、綾はこころに期待の眼差しを向ける。
「…やだよ、そんな面倒臭そうなの」
綾の期待を、こころは一刀両断した。途端に、綾は残念そうに視線を落とす。
「……から」
「え?」
「私、諦めないからっ!」
綾はこころを真っ直ぐに見つめてそう言うと、荷物を持って教室を飛び出していった。
「変な子…」
こころはそう呟いて、自分もようやく帰路につくことにした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「こころちゃん、おっはよーう!」
翌朝、学校へ向かう途中で、こころは誰かに声を掛けられた。誰に声を掛けられたのかは、振り向かなくても分かる。綾だ。
「ねえ、考え直してくれた?」
「何を…?」
「何をって、ドールズのことに決まってるじゃん!」
「だからそれは、昨日やらないって言ったでしょ」
こころが答えると、綾は頬を膨らませて見せた。
「女の子なら、他にもいるんだし。…ほら、あの子とか」
こころはそう言いながら、少し前を歩いている少女を指す。たまたま近くにいたというだけで、特に理由もなく指したのだが、どうやら綾のお眼鏡にかなったらしい。
「あの子、こころちゃんの知り合い?」
「ううん。通学の時間帯が同じだから、それでたまに見かけるくらい」
「なるほど」
綾はそう言うと、何やら考え込むような仕草をした。勧誘の方法でも思案しているのだろう。
「よーし、行ってくる!」
しばらく考えた後に、綾はそれだけ言い残して、前を歩く少女の元へと駆けていった。
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背後から誰かが近づいてきていることに気づかなかったのは、音楽を聴いていたせいだろう。
少女は、不意に肩を掴まれて素っ頓狂な声を上げた。それから、慌ててヘッドホンを外す。
「ねえ! 音楽好きなの?」
綾は少女に、目を輝かせながらそう尋ねた。
「…好きですけど」
「アイドルに興味あったりしない?」
「へ…?」
矢継ぎ早に投げかけられる質問に、少女は戸惑いを隠せない様子だった。
そんな少女を見て、綾はようやく自分がまだ名乗ってすらいなかったことに気づく。
「いきなりごめんね。私、2年B組の日向 綾! ドールズになってくれる人を探してるの!」
「あ…えっと、1年C組の寺岡 唯です。…ドールズって、ドルフェスのですか?」
「そうそう! ドルフェスに参加してみたいなー、なんて思わない?」
「そんなの、考えたことないです」
「じゃあ、ちょっと考えてみてくれない? 返事はいつでもいいから!」
「はあ…」
一方的に話を進められ、唯は溜め息にも似た返事をした。それからヘッドホンをして、音楽プレーヤーに入っているアイドルソングを再生してみる。
それを聴きながら、唯は自分より適任だと思う一人の少女のことを思い浮かべていた。
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