こころにアイドル部への入部を断られるも、そう簡単には諦めがつかない綾は、通学中にたまたま見かけた1年生の寺岡 唯へと勧誘の矛先を変える。
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「おっはよー」
登校して唯が一番に声を掛けたのは、幼馴染みの浅野 麻央だった。おはよ、と麻央は小さく挨拶を返す。
「ねえ、麻央。聞いて」
「どうしたの…?」
「麻央、ドールズにならない?」
「ええっ?! わっ、私が?!」
唯の提案に麻央は珍しく大きな声を上げてしまい、恥ずかしそうに俯いた。
麻央は昔から人前に立つのが大の苦手で、そのことは唯も承知している。しかし唯は、麻央が幼い頃からアイドルが好きだということも知っていた。
だからこそ、ドールズには適任だと思ったのだ。
「唯も一緒にしてくれるなら…」
麻央は口の中で呟くようにそう言った。その答えを聞き、唯はしばらく考えると、いいよ、と明るく返した。
「ほんとに?」
「当たり前でしょ。麻央がしたいと思うこと、私も一緒にしたいもん!」
麻央の人見知りが少しでもなくなりますように、と心の中で付け加え、唯は麻央に笑顔を向けた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「唯ちゃん、いい返事くれるかなあ?」
綾は指先でくるくるとペンを回しながら、こころにそう投げかけた。
「なんでこころちゃんは入ってくれないのー?」
「面倒臭そうだから」
綾の問いを、こころはまたもや一刀両断する。しかし綾は、そんなことは気にも留めていない様子だった。
「こころちゃんみたいに可愛い子がアイドルやらないなんて、もったいないよー」
「そう言ってくれるのは有難いんだけどね」
苦笑いをしながら答えるこころに、綾は眩しいくらいの笑顔を返した。
自分なんかよりも、綾の方がよっぽどアイドルらしいのに——という言葉を、こころはあえて飲み込む。
「でも諦めないもーん」
そう言って明るく笑う綾に、こころは思わず、考えとくね、と答えてしまった。
言った後で、しまった、と思ったが、こころは内心ではアイドルも悪くないと思い始めていた。
「綾ー! 後輩ちゃん来てるよー!」
教室のドアの方で、誰かが綾を呼んだ。見ると、そこには唯が立っていた。そして、その背中に隠れるようにして、もう一人。
二人を見た途端、綾はキラキラと目を輝かせてドアの方へと飛んでいった。
「唯ちゃん!」
「はい。あの、今朝の話なんですけど」
「うんうん、待ってたよー! それでそれで? ドールズになってくれる?」
綾の期待を全面に出した問いかけに、唯は頷いた。それから、後ろに立っていた麻央を紹介する。
「この子は、私の幼馴染みの浅野 麻央です。麻央も、私と一緒ならやるって言ってくれて——」
「ほんとに!!!」
そう言うと、綾は二人を抱きしめた。
「唯ちゃん、麻央ちゃん! ほんっとにありがとう!」
綾は心底うれしそうにそう言った。唯と麻央も、心なしか楽しそうな表情で、よろしくお願いします、と答える。
こうして、綾たち三人はついに、ドールズとして動き出した。
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