ST006:役割分担

麻央の強い意志の理由を知り、決意を新たにした唯。一方で、綾は自らの提示した準備期間に焦り感じていたが、こころから思いがけないカミングアウトを受ける。


 綾の反応を見て、こころは自分の発言が失言だったことを悟る。

「へえ〜、メイド喫茶かあ〜」

 さっきから何度もそう繰り返しては、何か言いたげな視線をこころを向ける綾。

「何が言いたいのよ」
「べっつにー、なーんにも! ちなみに、今日はバイトあるの?」
「綾ちゃんには関係ないでしょ」
「えー。じゃあ、何てお店?」
「教えません!」

 頬を赤く染めながら、半ば叫ぶようにこころは言った。それから心の中で、今日のバイトは絶対にバレないように行こう、と強く誓う。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

 放課後、こころは綾に声を掛けられる前に教室を出るというミッションに成功していた。

「今日はもう上がっていいよー」

 店長がこころにそう声を掛けたので、お疲れ様でした、と言ってこころは店の奥に入る。それから着替えを終えて、裏口から店を出た。
 こころがアルバイトをしている『どり〜みんぐ』は、ドールズ地区にある有名なメイド喫茶で、午後8時になっても店内が満席だった。しかし、こころの退勤と同時にその客たちも退店し始める。こころの人気は圧倒的だったのである。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 一方、学校ではこころが下校して間もなく、麻央と唯が綾の教室を訪ねてきていた。

「…これから、どうします?」

 ファストフード店の席でフライドポテトを摘みながら、唯が綾に尋ねる。

「あのね、ちょっと考えてたんだけど」

 綾の真剣な面持ちに、唯たちの背筋も自然と伸びる。

「役割分担をしようと思う」
「役割分担?」
「うん。やっぱり、やるからにはちゃんとやりたいなって」
「…いいと、思います」

 綾の提案に、麻央が同意する。

「ほんと?! じゃあ、麻央ちゃんには——」
「私…衣装、作ってみたいです」

 麻央は、綾の言葉を遮ってそう言った。綾と唯は驚いて顔を見合わせる。

「うん…! よろしくお願いします!!」
「はいっ」

0コメント

  • 1000 / 1000