ついに動き出したアイドル部だったが、綾が提示した準備期間は「1か月」。厳しい条件だとは思いつつも、強い意志を持って同意した麻央に倣い、唯もそれに従うことにする。
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「ねえ、麻央」
ファミレスでの “作戦会議” を終えて綾と別れた後、唯は麻央に話しかけた。
「1か月なんて、やっぱり無茶じゃない?」
「うん、私もそう思うよ」
「え? じゃあ、どうして」
「でもね、頑張ってみたいと思ったの。…アイドルは、私の夢だったし」
「…そっか」
「それにね。唯と一緒なら、頑張れるんじゃないかなって」
そう言って、麻央は唯に微笑みかけた。その顔を見て、唯は自分の心の中にあったささくれが消えていくのを感じた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ〜あ…」
翌朝、綾はため息をつきながら浮かない顔で登校してきた。こころはそれを見て、思わず声を掛けてしまう。
「どうしたの?」
「1か月後にライブしようと思ってるんだけどさあ」
「ライブ?」
「うん。ほら、唯ちゃんと麻央ちゃんと、三人で」
ああ、とこころは合点する。そういえば昨日、後輩が綾を訪ねてきていた。
「1か月でできるの?」
「そこなんだよねー、問題は! 自分で言い出したことだから、やるしかないんだけど」
そう言って、綾は力なく笑う。そんな彼女を見て少し心配になっている自分がいることに、こころは気づいた。
自分が何かの役に立てれば——そこまで考えて、いやいや、とこころはその考えを掻き消す。面倒事には巻き込まれたくない。
「がんばってね」
こころの言葉に、ありがとう、と綾は返した。それから、突然ぱっと表情を輝かせてこころを見る。
「こころちゃん!!」
「な…っ、何?」
「やっぱりさ、こころちゃんも手伝ってよ!」
「はあ?」
「ステージには立たなくていいからさ! ねっ?」
「そういう問題じゃないの」
「けちー」
こころの返事に、綾はぷくぅっと頬を膨らませる。
「私はバイトもあるし、忙しいの」
「ふぅん、何のバイト?」
「それは……」
言い淀むこころを、綾は不思議そうな顔で見つめる。
「ねえ、何のバイト?」
「…メイド喫茶」
こころは聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で答えたが、綾はそれを聞き逃さなかった。それから満面の笑みを浮かべ、言い放つ。
「何それ、最高じゃん!!!」
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