メイド喫茶のひしめくドールズ地区で圧倒的な人気を誇るこころがアルバイトに励む一方で、綾たち三人も1ヶ月後に控えたライブに向け、まずは役割分担として麻央の “ 衣装担当 ” 立候補を皮切りに、準備を進めていくことに。
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「あの、綾さん」
綾と麻央のやり取りを見ていた唯が、綾に声を掛ける。
「私は、作曲を担当します」
「唯ちゃん…!」
綾はそう言いながら、唯と固く握手する。それから、再び真剣な表情に戻る。
「それじゃ、私は作詞を担当するね」
「よろしくお願いします」
「あ、あの……」
「どうしたの? 麻央ちゃん」
「ダンスとかって、しないんですか?」
麻央の質問に、綾はしばらく考え込んだが、すぐに何かを閃いたように、ぱっと顔を上げた。
「大丈夫! ダンスなら教えてもらえるから!」
麻央と唯には、綾のその発言は何を根拠にしているのかが分からなかった。しかし、綾は絶対の自信を持っているように見えたため、二人は追及するのをやめた。
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「……で? それで、どうして私のところに来るの?」
翌日、綾はこころに近況報告をしていた。麻央が衣装を作ってくれること、唯が作曲を担当してくれること、綾が歌詞を考えなくてはならないこと…そして、三人がダンス未経験者であること。
「だって、こころちゃんならダンス出来るでしょ?」
「なんでそう思うのよ」
「メイド喫茶で、そういうのして——」
「シッ!! そのことは内緒にしてて!」
こころにそう言われ、綾はニヤリと笑う。
「内緒にしててあげるから、ダンス教えて?」
綾の交渉に、こころは乗らない訳にはいかなかった。三人にダンスを教えることを条件に、メイド喫茶でのアルバイトを内密にしてもらうことにする。
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「それにしても、ダンスはどこで練習するの?」
その日の放課後、幸か不幸かこころはアルバイトのシフトが入っていなかったため、教室では早速顔合わせが行われていた。
「それは、えっと…」
「あそこなんて、どうでしょう?」
そう言いながら、麻央は窓の外を指差した。他の三人は、その先を視線で辿る。
「屋上?」
「はい。あそこなら、誰の邪魔にもならないと思うんです」
「たしかに…お昼休みならともかく、放課後は部活で使うこともないし」
「よし! そうと決まれば早速行くよ!」
そう言って、綾は勢いよく立ち上がったが、すぐさまこころに反論される。
「振り付けを考えるのは、曲が完成してから」
「はぁい…」
「綾たちはまず、基礎体力づくりをしなきゃ」
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