ST011:幕が上がる

本番の1週間前になっても歌詞を仕上げない綾に、こころは痺れを切らしてしまう。しかし、既に綾は歌詞を完成させており、麻央と唯にその事実を明かす。綾の書いた歌詞を読み、唯が「三人で完成させよう」と言ったことで、三人の気持ちが結束する。


 唯の言葉どおり、その後の綾たちの練習にこころが加わることはなかったが、それでも三人は最後まで練習を続け、ついに歌とダンスをマスターした。
 そして、いよいよライブ前日。綾たちは、校内でビラ配りをしていた。

「明日、ライブやりまーす! 良かったら来てくださーい!」

 しかし努力の甲斐も虚しく、それを受け取ってくれるのはクラスメイトや顔なじみの生徒ばかりだった。

「お願いしまーす!」

 綾の元気な声とともに、一枚の紙が差し出される。

「 “ライブ開催” …?」

 チラシを受け取った成宮 すずは、思わずそう呟いていた。

「はい! 明日の放課後、講堂でライブをしようと思ってます!」
「…そう、がんばってね」
「ありがとうございます! もし良かったら、観に来てくださいね!」

 そう言いながら、綾は満面の笑みを向ける。もちろん彼女は、すずが生徒会の役員であることなど知る由もなかった。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 綾から受け取ったチラシを手に、すずは生徒会室へ向かっていた。

「ミヲ」

 部屋の中には、生徒会長である平田 ミヲの姿があった。ミヲは、どうしたの、と言いながらすずに振り向く。

「見て、これ。明日の放課後、講堂でライブがあるって」
「ライブ? そんなの聞いてないわよ」
「…だと思った」
「すず。明日の放課後、予定空けておいてね」
「はーい」

 すずは間延びした返事をすると、じゃあね、と言って生徒会室を後にした。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ——翌日。放課後、綾たち三人は講堂の舞台裏に集まっていた。

「麻央ちゃんの作った衣装、かわいい〜!」
「えへへ、ありがとうございます」

 衣装は、たったの1か月で作り上げたとは思えない出来だった。

「…がんばろうね」

 不意に、綾が真剣な面持ちになる。それを見た麻央と唯も、改めて気持ちを引き締める。

「準備できたー?」

 ライブの裏方として手伝ってくれることになった、綾のクラスメイトが声を掛けた。綾は麻央と唯に目配せしてから、合図を送る。

「いくよっ」

 舞台の緞帳(どんちょう)が上がる。三人の前に広がった光景は、絶望そのものだった。

0コメント

  • 1000 / 1000