こころの鬼のようなスパルタ特訓が続く毎日。そんなある日、特訓後に突然「話がある」と唯が切り出し、四人は “作戦会議” のファミレスへ。そこで唯が放ったのは、「ついにメロディができた」という言葉だった。
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「作曲ができたってこと…?」
「そうです。だから今日は、皆さんに聴いてもらいたくて」
「聴きたいっ!」
半ば食い気味に、綾が叫んだ。その反応に、強張っていた唯の表情が緩む。それから、テーブルの上の携帯にイヤホンを繋ぎ、綾に手渡した。
「いきますよ」
綾がイヤホンを耳に装着したのを確認して、唯は声を掛けた。綾はそれを受け、無言で頷く。
ただじっと、真剣な表情のまま綾は唯の作った曲を聴いていた。周りで見守る三人の間にも、緊張した空気が漂う。
「唯ちゃん」
曲を聴き終わり、イヤホンを外しながら綾が言った。
「私、絶対にいい歌詞書くから!」
唯にとっては、その言葉だけで感想は十分だった。麻央が、よかったね、と目で唯に伝える。
「私にも、聴かせてもらえる?」
そう言ったのは、こころだった。それを聞いて、唯はほんの一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに「ぜひ、お願いします」と言ってこころにイヤホンを差し出した。
「これ、今日中にCD作れる?」
こころの第一声は、それだった。それはつまり、明日からこの曲でダンスの練習をするということである。唯はその問いに、大きく頷いた。
「明日からはいよいよダンスの練習かあ」
綾はそう言って、目を輝かせた。ライブまで、残り3週間。いよいよ、本格的な練習が始まろうとしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「こーこーろーちゃん」
翌朝、綾は登校するなり早速こころに声を掛けた。こころは、訝しげに綾を見る。
「どうしたの」
「ちょっとお願いなんだけど、私にだけ先に全部のダンス教えてもらうことってできないかな?」
「それは大丈夫だけど…」
答えながら、こころは「そういうことか」と合点する。綾は、こころがアルバイトの日でも、欠かさず練習したいのだ。
「ほんと?! じゃあ、教えてほしい!」
「その代わり、完璧にマスターしなさいよ」
「分かってまーす!」
そう言って、綾はにっこりと笑った。つられて、こころも思わず微笑んでしまう。
自分も綾たちと一緒に活動できたら——最近、こころはそんなことを考えるようになっていた。しかし、綾からの勧誘をあれほど強く断ってしまった手前、こころはその気持ちを胸中に留めるに至っていた。
「こころちゃん」
「なに?」
「じゃあ早速、今日のお昼休みね!」
「あ…うん、わかった」
こころが答えると、綾は満足そうな顔をして前に向き直った。こころも、1限目の授業の準備をする。
その日の授業中、こころは終始 “自分にできること” がないかを考えていたが、結局なにも思いつくことはなかった。
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